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浦和地方裁判所熊谷支部 昭和50年(ワ)65号 判決

原告

茂木昭樹

被告

鈴木俊明

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し、三八七万九四六五円と内金三三四万六五二一円に対する五〇年二月一三日以降、内金二〇万円に対する同年四月一三日以降、内金二七万四二三七円に対する五一年一月一七日以降、内金五万八七〇七円に対する五二年七月三日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分してその一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決の一項は仮に執行出来る。

事実

註 本判決中○印内の算用数字は通院実日数を示す。なお、年号は全て昭和である。

第一請求の趣旨

被告らは各自原告に対し、八四九万二一八四円と内金七一五万五〇〇四円に対する五〇年二月一三日以降、内金一〇九万四二八〇円に対する五一年一月一七日以降、内金二四万二九〇〇円に対する五二年七月三日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

仮執行宣言

第二当事者の主張

一  原告

1  原告は、東松山市所在のヂーゼル機器株式会社東松山工場に勤務している者である。

2  被告俊昭は、明星大学二年生であつた四七年一二月二八日午後八時二〇分項、普通乗用自動車を運転して、東松山市大字松山二五六一番の五先道路を、坂戸町(現在坂戸市)方面から熊谷市方面に向かい、時速約六〇kmで進行中、当時暗夜で降雨中のため、前方の見通しが困難な状熊にあつたから、一層前方を注視し、減速等して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、前方を注視せず、かつ、減速もしないまま、時速六〇kmで運転した過失により、前方同方向で右折しようとして停車していた原告運転の普通乗用自動車に自車右前部を衝突させ、その衝撃により、原告に対し相当長期間の療養を要する頸部及び背椎、下腹部打撲兼むち打症の傷害を負わせた。

3  右事故は被告俊明の過失により生じたものであり、右加害車両は被告吉信の所有に係るものであつて同人はこれを被告俊明に使用させていたものであるから、被告俊明は民法七〇九条により、被告吉信は自賠法三条により原告の被つた損害を各自賠償すべき責任がある。

4  本件事故により原告は別表Ⅰ~Ⅲのとおり総計八九七万一二九四円の損害を受けた。

5  しかして、原告は、右損害について、自賠責保険から五〇万円の填補を受け(右五〇万円のうち一三万三〇三〇円は須田病院における治療費の支払に充てられ、残金三六万六九七〇円は東松山整形外科病院における治療費の一部の支払に充てられた。)、又ヂーゼル機器健保組合診療所における治療費六六九〇円は被告俊明によつて支払われた。

6  よつて、原告の受けた損害中、未填補部分は八四九万二一八四円となる(原告主張のママ。正しくは八四六万四六〇四円と算出されるべきもの。その差二万七五八〇円中、二万七五〇〇円は榎本医院における治療費中右同額が重複計算されていることに、又八〇円は治療費に関する単純な計算ミスに各由来する。)。

7  よつて、原告は被告両名に対し、八四九万二一八四円及び以下に記載の遅延損害金の支払を求める。

(一) 通院交通費一万二三四〇円、榎本医院における治療費中五〇年三月二六日以前に要した四万一九四〇円及び後遺症慰謝料一〇四万円に対するいずれも五一年一月一七日(これらを請求して第二回目の請求拡張の準備書面が陳述された日の翌日)から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二) 東松山整形外科病院における治療費中四九年一二月二五日以降に要した一四万三六六〇円、榎本医院における治療費中五〇年三月二六日より後に要した四万二七四〇円及び金子マツサージ師方における治療費五万六五〇〇円に対するいずれも五二年七月三日(右請求に係る損害は、全て右同日より前に生じており、右同日は第三回目の請求拡張の準備書面が裁判所に受理された日の翌日である。)から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(三) 右以外の請求金員に対しては、五〇年二月一三日(右請求に係る損害は全て右同日より前に生じたものである。)以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

8  被告の主張2~5項は全て争う。

原告の受傷は被告らの主張するように軽度単純のものではない。

又、被告は原告が各種の医療機関を利用したことを非難するが、これは原告の病状の重かつたことを示すものであり、原告は一日も早くよくなりたいと一心に治療に努めたが、なかなか快方に向かわないので、一人の医師の治療に満足出来ず、同時に他の治療も併せ試みたものであつて、これを非難するのは病人の心理を無視するものである。

二  被告ら

1  原告の主張1項は不知。

同2項中、被告俊明が減速しないまま時速六〇kmで進行して原告車に衝突したとの点は否認し、原告の傷害の部位、程度、態様については不知、その余は認める。

同3項は認める。

同4項は不知。

同5項は認める。

同6、7項は争う。

2  原告の傷害は、当初より、他覚的検査による異常は殆んどみられず、ただ、原告の多彩にわたる主訴がみられるだけであり、異常なまでに、強い主訴があれば、医師としてもこれを放置することも出来ず、ある一定の治療を施さざるを得なかつたのが、真相であると思われる。

そして、医師が軽快したことを強く主張すれば、逆に原告は、これに反発し、転医をくりかえし、かつ、自己判断により諸種の治療機関を利用して来たのである。

又、原告は、自己の勤務先の診療所である、ヂーゼル機器診療所において、神経症の判断を受け、その後、長期間治療を受けた東松山整形外科病院においても、当初より、神経症又はヒステリーの疑いをもたれていたのである。

3  しかして、原告が、このように長期かつ多種多様な診療を続けたのは、ひとえに、原告の神経症又はヒステリー症的性質によるものであり、本件事故を原因とする傷害については、当初の須田病院の治療にて十分であつたと思われるし、仮に東松山整形外科病院における治療に相当性があるとしても、それは、四八年三月項までで十分であつたと考えられる。

4  従つて、復職も右時点で可能であつたから、休業損害等の計算においては、右時点以降の休業にもとづく損害に因果関係は認められないし、治療費についても、東松山整形外科病院で治療を受けるようになつた以後の分は、同病院以外での治療に関しては被告らには賠償責任はないものと言うべきである。

5  又、原告は、年次有給休暇や精励休暇についても損害賠償を請求しているが、給与体系は年次休暇や精励休暇も含めて作られているものであるから、給与の不給自体を損害として請求しながら、更に、右休暇についても損害賠償を請求することは重複請求であつて不当である。

又、年次休暇の不行使を損害の対象とするためには、会社に対し休暇の買上請求を出来ることが必要であるが、買上契約は労基法三九条に牴触して無効とされるのみならず、場合によつては罰則(労基法一一九条一項一号)の適用も問題となるところである。

理由

(甲第一、二の一・二、三の一~一四、七の一~三、八の一~五、一〇の一~七、一四、一六の三、一七の二、一八、一九号証、乙第一の一~三、二~六、七の二~八三号証の成立は当事者間に争いがなく、甲第二の三、四の一~四、五の一~一五、六の一~四、七の四~七、一一の一~三二、一二の一~一四、一三の一~二〇、一五、一六の一・二、一七の一・三・四、二〇の一~九九、二一の一~三七、二二の一~四〇、二三の一~五及び乙第七号証の一の成立は弁論の全趣旨によつてこれを認めることが出来る。――写しで提出のものについては弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる。)

一  甲第一、二の一・二、三の一~一三、四の一~四、五の一~一五、六の一~四、七の一~七、八の一~五、一〇の一~七、一六の一~三、一七の一~四、一八、一九、二〇の一~九九、二一の一~三七、二二の一~四〇号証、乙第一の一~三、二、三号証、証人須田修及び原告の供述並びに弁論の全趣旨(当事者双方の主張)を総合すれば、原告は、東松山市所在のヂーゼル機器株式会社東松山工場に勤務している者であるが、四七年一二月二八日午後八時二〇分項、会社から普通乗用自動車を運転して帰宅する途中、同市大字松山二五六一番の五先道路において右折せんとして停車していたところ、被告俊明運転に係る普通乗用自動車の右前部に自動車後部を追突され、その衝撃により、頸部及び脊柱、下腹部打撲兼むち打症の傷害を受け、その治療のために、

1  右同日(四七年一二月二八日)から四八年一月二一日まで須田病院に二五日間入院し、

2  同病院に同月二二日から同月二六日まで五日間通院(〈5〉)し、

3  同月二九日から翌月九日までヂーゼル機器健保組合診療所に一二日間通院(〈5〉)し、

4  同月五日から同年五月一〇日まで東松山整形外科病院に九五日間入院し、

5  同病院に同年五月一一日から四九年七月三一日まで四四七日間通院(〈209〉)し、

6  同病院に同年八月一日から同年一二月二四日まで一四六日間通院(〈7〉位)し、

7  同病院に同月二五日から五二年四月二七日まで八五五日間通院(〈100〉位)し、

8  岡部物理療法院に四八年一一月七日から同年一二月四日まで二八日間通院(〈3〉)し、

9  東洋整復院に四九年四月二日から同年七月六日まで九六日間通院(〈11〉)し、

10  嶋田療術師方に四八年一〇月一六日から同年一二月七日まで五三日間通院(〈17〉)し、

11  同療術師方に四九年一月一五日から同年一一月一九日まで三〇九日間通院(〈28〉)し、

12  榎本耳鼻咽喉科医院に四九年六月三日から同年一〇月二六日まで一四六日間通院(〈13〉)し、

13  同医院に同年一〇月三一日から五二年四月一六日まで五三四日間通院(〈46〉)し、

14  埼玉医大附属病院に四九年四月一五日から同年五月六日まで二二日間通院(〈4〉)し、

15  金子マツサージ師方に五〇年四月三〇日から五二年四月二〇日まで七二二日間通院(〈40〉)し

たことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  ところで前記乙第一号証の一・二及び当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨によれば、右交通事故は被告俊明が当夜雨天であるにも拘らず前方に十分な注意を払わずに漫然と時速六〇km位の速度で進行し原告車両に気付くのが遅れたために生じたものであること、被告俊明運転の自動車は同人の父である被告吉信所有に係るものであることが各認められ、右事実によれば、被告俊明は民法七〇九条により、及び被告吉信は自賠法三条により、原告に生じた損害を賠償すべき責任があるものと言わざるを得ない。

三  一項に掲記の証拠及び同項で認定した事実、甲第一五号証、証人大井茂男の供述並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下1~4に述べる事実が認められる(推認される。)。

原告は、衝突時に頸部に受けた衝撃が非常に強度であつた趣旨の供述をするけれども、右供述は乙第一号証の二、乙第二号証並びに証人須田修の供述に照らして措信し難い。

又、四八年一二月一四日付の岡部昭三作成の診断書には、岡部方において四八年一一月七日から翌月四日までの間に三日間通院治療がなされた旨の記載があり、かつ、傷病名として「頸椎不完全脱臼、腰椎不完全脱臼、腕関節捻挫(右)」との記載があるが、右傷病名の記載は、須田病院、ヂーゼル機器健保組合診療所、東松山整形外科病院各作成の診断書、カルテ(甲一、二の一・二、三の二~六・一三号証、乙第二、三号証)に照らして措信出来ない(右、傷病名の記載が正確なものであるとすれば、原告は本件事故後に本件事故とは別個の事故に遇い、新たに受傷したものと見ざるを得ないであろう。)。

1  衝突時、原告の身体に対する衝撃はそれ程重度のものではなく、原告が医者の診察を受けることにしたのも事故現場に来た警察官の勤めによるものであること

2  一項で認定のように原告は四七年一二月二八日に受傷して以来五年数か月になる今日に至るまで、病院、診療所、療術師方等九か所の医療施設において治療を受け、その間には(多)重複診療もあつたが、その治療過程においては、視診、触診、諸検査等においても取り立てて言うべき程の他覚的異常は認められず、原告に対する治療は主として原告の、頭痛、頭重、めまい、耳鳴り、手足のしびれ感、腰痛、頸部痛、不眠、胸苦、寝汗をかく等の訴えに基づいて継続されたものであること

3  原告は真面目な人柄であるが、小心、心配症、神経質で、本件事故による負傷の治療に際しても、その性向が災いし、自ら病気(諸症状)を作り出しているという感じさえする程に次から次へといろんな症状を訴え、そのため、ヂーゼル機器健保組合診療所や東松山整形外科病院の診断書や東松山整形外科病院の診断書やカルテには、「外傷性神経症、精神安定剤服用」(甲二の一・二)、「病気恐怖感」(甲三の二)、「神経症所見!。患者はマジメで神経質な様である、加害者に誠意が見られず“示談家”を雇つて“国会議員を知つている”等高圧的態度で示談を迫る、金銭的な問題の他に“後遺症”が残つて又あとで出るかも知れないという不安を持つている、神経症的色彩が濃い(ヒステリー?)、まず自分の病気を治すこと、右足は必ず治ること、微熱は心配ないことを強調しておきました(以上乙三、48・2・17の欄)、加(「被」の誤りと思われる)害者意識が強いと思う(乙三、49・1・21の欄)、一日も早く仕事に(以下不明、乙三、49・2・16の欄)、仕事をして下さい(乙三、49・3・5の欄)、次回就労してもよいという診断書を書く予定(乙三、49・3・20の欄)、就労に支障なきものと認める(乙三、49・6・24の欄)」等の記載がなされる状況であつたこと

4  原告は、四九年六月二四日付で、東松山整形外科病院作成の、経過良好にて就労に支障なきものと認める旨の同日付診断書を添付した復職願をジーゼル機器株式会社に提出し、同年七月一日頃から同社に復職勤務を始めたこと

四  ところで、いわゆるむち打症は、その症状の実体が他覚的にとらえ難く、そのため、患者の性格等によつて、症状の訴え方にはかなりの差があるのに、患者の訴えのみによつて治療が加えられるという傾向があり、そのためか、いわゆるむち打症に罹患して何らかの自覚症状がある場合にも、これを極めて過大に訴えて、長期間、治療を受け、休業する者と、かかる症状を殆ど無視して短期間の治療と休業で済ます者とがあることは、日常しばしば見聞されるところである。

しかして、このような場合、短期間の治療と休業で済ます者にはそれに応じた補償しかせず、他方症状を強調していつまでも治療と休業を継続する者にはそれに応じた損害賠償を受けしめるというのは公平感情に反するところであり、又、いろいろ批判はあるけれども、これ程までに自動車が広く普及した現在の社会情勢下においては、被害者と加害者の立場が入れ替わる可能性も極めて強いのであつて、このようなことを考えると、被害者の性格等の影響によつて長期間治療が継続されたこと等により損害、出費等が拡大された場合に、その全てを加害者が負担すべきものとするのは相当でなく、治療や休業等による損害の拡大に被害者の性格や治療態度が寄与している場合には、賠償額の算定にあたつては、これらの事情を賠償額を減ずる要因として斟酌するのが相当であると解される(尤も、損害の拡大に、神経質、心配症といつた被害者の性格が寄与していると認められる場合にも性格の寄与分全体を被害者の負担に帰せしめてしまうのは相当でない。世の中に「神経質」等の性格の人も多々いるわけであり、しかして、このような人も加害者の不法行為に遇いさえしなければ「神経質」等の性格がマイナスに働いて損害が生ずる(拡大する)という憂目に遇うこともなかつたものと言うことが出来るからである。)。

五  本件においては、一項で認定したように、原告は種々の医療機関で治療を受けているところ、被告は、東松山整形外科病院で治療を受けるようになつてから以後の、右病院以外の医療機関による治療は不必要なものであつたと言うべく、従つて、その治療費については、被告に損害賠償責任はない旨主張するのであるが、被害者が、心配のあまりに、或いは、何とか治りたい一心で各種の医療機関に診察、治療を求めるのは、果して治療上好結果を生むかという点では問題があるが、人情的には、止むを得ないものと理解すべき一面もあるものと言うべく、従つて、ある医療機関による治療に関して、それが明らかに不必要かつ無益であつたと言えない限りは、その治療に関して、加害者に損害賠償の責任がないと言い切つてしまうよりも、そのような事情は、被害者の治療態度、被害者の性格等による治療費等の拡大の問題としてとらえて、損害賠償額の減額要因として扱うのがよいと考えられるところ、本件において、ある医療機関での治療が明らかに不必要かつ無益であつたと認めるべきような証拠はない。

六  ところで、いわゆるむち打症については、数年間も苦痛に呻吟する例もないわけではないようであるが、乙第四号証、証人丹羽信善の供述及び経験則を総合すれば、一般には六か月以内位に治癒しているものと認めることが出来るところ、本件全証拠によるも原告の受けたむち打症の被害が通常のむち打症の被害よりも重度のものであつたとは認め難い。

七  以上一~六項に述べたところを総合すると、原告は、原告が主張している損害費目中、慰謝料、弁護士費用を除いた分の損害に関しては、事故から三か月あまり後である四八年三月三一日までに生じた分についてはその全額につき、同年四月一日から原告が復職する直前の四九年六月三〇日までの分についてはその二分の一につき、同年七月一日から本件事故より四年あまり後である五一年一二月末日までの分についてはその三分の一につき、被告らに対して損害の発生を主張出来るが、その余については被告らに対して損害の発生を主張出来ず、従つて、右主張出来ない分の損害については原告が負担すべきものとするのが相当である。

八  そこで次に、原告の受けた損害中、まず医療費(診断書料を含む。)について検討することとする。

1  甲第三号証の一四及び弁論の全趣旨並びに一項で認定した事実を総合すれば、原告が須田病院で要した治療費は一三万三〇三〇円で、それは全て四八年三月三一日以前の治療に要したものであると認めることが出来る。

2  甲第二号証の一~三及び弁論の全趣旨によれば、原告がヂーゼル機器健保組合診療所で要した治療費は八六九〇円で、それは全て四八年三月三一日以前に要したものであることが認められる。

3  甲第三の一~八・一三・一四、二〇の一~六三によれば、原告が東松山整形外科病院で要した治療費は、四八年二月五日から同年五月一〇日までの分が九五万六五一〇円、同月一一日から四九年七月三一日までの分が八六万五三〇〇円、同年八月一日から同年一二月二四日までの分が四万六七四〇円、同月二五日から五一年一二月三一日までの分が一〇万一五八〇円であることが各認められる。

そうすると、東松山整形外科病院における治療費は、四八年三月三一日までの分は、左記(a)の按分計算により五五万三七六九円、同年四月一日から四九年六月三〇日までの分は左記(b)の按分計算により一二〇万八〇三一円、同年七月一日から五一年一二月三一日までの分は左記(c)の按分計算により二〇万八三三〇円であると認めることが出来る。

(a)  956,510円×55日/95日=553,769円

(b)  956,510円×40日/95日+865,300円×416日/447日=1,208,031円

(c)  865,300円×31日/447日+46,740円+101,580円=208,330円

4  次に、甲第四号証の一~四によれば、原告が岡部物理療法院で要した治療費は二万三〇〇〇円でそれは全て四八年四月一日から四九年六月三〇日までの間に要したものであると認めることが出来る。

5  次に、甲第五号証の一~一五を総合すれば、原告が東洋整復院で要した治療費は三万七〇〇〇円で、それは全て四八年四月一日から四九年六月三〇日までの間に要したものであると認めることが出来る。

6  次に甲第六号証の一~四によれば、原告が療術師嶋田れつ方で要した治療費は三万一七〇〇円で、同人方で原告は、四八年一〇月六日から同年一二月七日までの間に一七日間、四九年一月一五日から同年一一月一九日までの間に二八日間治療を受けたことが認められる。

そうすると、右嶋田方における治療費は、四八年四月一日から四九年六月三〇日までの分が左記(a)の按分計算により二万二六三六円、四九年七月一日から五一年一二月末日までの分が左記(b)の按分計算により九〇六四円であると認めることが出来る。

(a)  〈省略〉

(b)  31,700円×28回×142日/309日/45回=9,064円

7  次に、甲第七の一~七、一〇の一~七、二一の一~三〇によれば、原告が榎本耳鼻咽喉科医院で要した治療費は初診の四九年六月三日から同年一〇月二六日までの分が二万四六二〇円、同月二七日から五一年一二月三一日までの分が四万七三六〇円であることが認められる。

そうすると、右榎本医院における治療費は、四八年四月一日から四九年六月三〇日までの分が左記(a)の按分計算により四七二二円、同年七月一日から五一年一二月末日までの分が左記(b)の按分計算により六万七二五八円であると認めることが出来る。

(a)  24,620円×28日/146日=4,722円

(b)  47,360円+24,620円×118日/146日=67,258円

8  次に、甲第八号証の一~五によれば、原告が埼玉医大附属病院で要した治療費は七五二〇円で、それは全て四八年四月一日から四九年六月三〇日までの間に要したものであると認めることが出来る。

9  次に、甲第二二号証の一~三三によれば、原告が金子マツサージ師方で要した四九年七月一日から五一年一二月末日までの治療費は四万四五〇〇円であることが認められ、右以外に右以前に右マツサージ師方で要した治療費を認めるに足る証拠はない。

九  甲第一二の一~一四、一三の一~二〇号証及び乙第七の三二・五四・五九・六二・六四号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、入院中に要する衣料その他備品等の購入のため、四七年一二月二八日から四八年三月三一日までの間に三万六四四〇円を、同年四月一日から同年五月一〇日までの間に四七二〇円を各出捐したことが認められ、右は、本件事故により原告に生じた損害と認めることが可能であるが、右以外に原告が入院諸雑費を出捐したことを認めるに足る証拠はない(なお、原告は入院中の雑費として入院一日当り三〇〇円の割合による損害の主張をすると共に、入院準備費として三万三三一五円の損害の主張をしているところ右三万三三一五円がどこから算出されたものであるかは不明であり、しかして、右三万三三一五円が甲第一二の一~一四、一三の一~二〇を根拠に算出されているものとすれば、入院準備費は一日当り三〇〇円として計算した入院中雑費と重複することになる。)。

一〇  甲第一一号証の一~三二及び弁論の全趣旨によれば、原告は須田病院、東松山整形外科病院等に通院するに際して、四八年三月三一日までの間に六五〇〇円、同年四月一日から四九年六月三〇日までの間に五九四〇円、合計で一万二四四〇円のタクシー又はハイヤー代を出捐し、しかして、右は本件事故により原告に生じた損害であると認めることが出来る。

一一  次に、本件事故により原告が休業したことによる諸損害について検討する。

1  まず、給料の支払を受けられなかつたことによる損害について検討するに、甲第一五、一六の一~三、一七の一~四号証、証人大井茂男及び原告の各供述を総合すれば、原告は本件事故で受傷したことにより四七年一二月二九日から四九年六月三〇日まで休職し、そのため、その間全然給料の支払を受けられなかつたこと、これを休職せず、通常どおり勤務して給料の支払を受け得た場合と比較すると、右休職による損害は四七年一二月二九日から四八年三月三一日までの間については二五万八四五〇円になり、同年四月一日から四九年六月三〇日までの間については一六八万〇四八〇円になるものと言うことが出来る。

2  次に、右1に掲記の証拠によれば、原告は、本件事故による負傷の治療等のため、休職し、あるいは欠勤したことにより、一〇〇%出勤した場合に比し、四八年七月期において一八万九五〇〇円、同年一二月期において三三万五五一〇円、四九年七月期において三六万八七〇〇円、四九年一二月期においては一二万九六一〇円償与の支給がそれぞれ少なかつたことが認められるところ、甲第一五号証及び証人大井茂男の供述を総合すると、原告の事故前における出勤率は極めて良好であつたと認められるので、一〇〇%出勤した場合に受け得る償与と現実に受けた償与との差額をそのまま損害として差支えないと考えられる。

そうすると、特に判定資料もないので七月期の償与はその年の一月から六月までの勤務に応じて、及び一二月期の償与はその年の七月から一二月までの勤務に応じて支給されるものと考えることとすると、償与が少なかつたことにより原告の受けた損害は、四八年三月三一日までの分については左記(a)の按分計算により九万四七五〇円、同年四月一日から四九年六月三〇日までの分については左記(b)の按分計算により七九万八九六〇円、四九年七月一日から同年一二月末日までの分については一二万九六一〇円であると言うことが出来、しかして、右以外に償与の差額を理由とする損害の主張立証はない。

(a)  189,500円×3月/6月=94,750円

(b)  189,500円×3月/6月+335,510円+368,700円=798,960円

3  次に、残業が出来なかつたため、残業手当の支給を受けられなかつたことによる損害について検討するに、1に掲記の証拠を総合すれば、原告は本件事故による受傷により事故後から復職する直前の四九年六月三〇日まで残業が出来ず、そのため残業手当の支給を受けられなかつたこと、事故に遇う直前の四七年九、一〇、一一月の三か月間に係る原告が支給を受けた月平均残業手当額は一万八五八一円であることが各認められ、そうすると、原告は休職期間中、残業手当の支給を受けられないことにより、一か月当り一万八五八一円の損害を受けたものと解するのが相当であり、そうすると、右による損害は、四七年一二月二八日から四八年三月三一日までの分については五万五七四三円、同年四月一日から四九年六月三〇日までの分については二七万八七一五円になるものと言うことが出来る。

4  次に、原告は、本件事故に遇つて休職したために、年次有給休暇及び精励休暇を発生せしめ得なかつたとして、月額給与から一日当りの給与額を割り出し、これに本件事故に遇わなければ発生せしめ得たと考えられる休暇日数を乗じて損害額を算出しているのであるが、原告が本件事故に遇うことなく、その結果、原告主張のように休暇を発生せしめ得たとしても、原告がその休暇を会社に買取らせるとかその他に利用して収益をあげ得たとか、あるいは右休暇がないばつかりに欠勤扱いを受けその結果収入が減じたとかいう事実を認めるに足る証拠はないから、有給休暇あるいは精励休暇を発生せしめ得なかつたことを本件事故により原告の受けた損害として認容することは出来ない。

一二

1  次に慰謝料について検討するに、原告が本件事故に遇つたことにより受けた精神的苦痛(後遺症によるものを除く。)に対する慰謝料は、一~七項に述べたところを総合判断すれば、六〇万円とするのが相当である。

2  次に、甲第三の二・五・六・一三、七の三、一八、一九号証並びに三~七項に述べたところを総合すれば、原告には一四級一〇号に該当する後遺症があるものと認めることが出来るが、これに対する慰謝料は三~七項に述べたところに照らすと二五万円とするのが相当である。

一三  次に弁護士費用について検討するに、弁護士費用分として二〇万円の損害を主張する原告の主張は弁論の全趣旨に照らし、その相当性を是認することが出来る。

一四  以上の次第であるので、原告が、被告らに対して、本件事故により原告に生じた損害として主張できる損害額は四三八万六一五五円となる(別表Ⅴ参照)。

一五  しかして、損害の填補として自賠責保険から五〇万円の支給がなされこれが治療費の一部の支払に充てられたこと及び被告俊明がヂーゼル機器健保組合診療所における治療費六六九〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

一六  そうすると、原告が被告らに対して主張し得る損害の未填補部分は三八七万九四六五円となる(原告には、生じてはいるものの、それを被告らに対して主張し得ない損害があることは前述したとおりであるが、自賠責保険金や被告俊明の支払つた治療費は被告らに対して主張し得る損害の填補に充てられたものと解すべきである。)。

一七  そこで次に、遅延損害金の請求について検討する。

1  七項、一〇項、八項の7、一二項の2に述べたところ並びに甲第七の二・四~七、一〇の一~七号証によれば、原告が被告らに対して主張出来る通院交通費損害は左記(a)の計算により九四七〇円であり、榎本医院における治療費中五〇年三月二六日以前に生じたもので被告らに対して主張し得るものは左記(b)の計算により一万四七六七円であり、被告らに対して主張出来る後遺症慰謝料は二五万円であつて、これらはいずれも五一年一月一七日より前に生じたものと認められるから、右の合計二七万四二三七円に対する右同日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。

(a)  6,500+5,940×1/2=9,470

(b)  4,722×1/2+{(24,620-4,722)+17,320}×1/3=14,767

(17,320は49.10.27から50.3.26までの間における榎本病院における治療費の額である。)

2  次に、七項、八項の3、八項の7、八項の9に述べたところによれば、東松山整形外科病院における治療費中四九年一二月二五日以降に、及び榎本医院における治療費中五〇年三月二七日以降に各生じた治療費並びに金子マツサージ師方における治療費中原告が被告らに対して主張し得る治療費の合計は左記計算により五万八七〇七円となり、これは全て五二年七月二日以前に生じたものであると言えるから、右金員に対する五二年七月三日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。

101,580×1/3+(47,360-17,320)×1/3+44,500×1/3=58,707

3  しかして、原告が被告らに対して主張し得る損害額の未填補部分から、右1、2の合計金三三万二九四四円を控除した残額は三五四万六五二一円であるところ、右のうち弁護士費用分二〇万円を除いた三三四万六五二一円の損害はいずれも五〇年二月一三日よりも前に生じたものであるから、右三三四万六五二一円に対する右同日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求は理由があるが、弁護士費用二〇万円については、甲第一四号証によれば、原告は五〇年四月一二日に千島弁護士に本件の手数料として二〇万円を支払つた事実が認められるから、弁護士費用二〇万円に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の起算日は五〇年四月一三日となる。

4  しかして、その余の遅延損害金の請求は失当である。

一八  以上の次第で、原告の請求は、被告ら各自に対し、三八七万九四六五円と内金三三四万六五二一円に対する五〇年二月一三日以降、内金二〇万円に対する同年四月一三日以降、内金二七万四二三七円に対する五一年一月一七日以降、内金五万八七〇七円に対する五二年七月三日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であるから、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 高篠包)

別表Ⅰ 治療費(診断書料を含む。)………2,409,630円

〈省略〉

別表Ⅱ 入院準備費、入院諸雑費、通院交通費……81,655円

1 入院準備費 33,315円

2 入院諸雑費 300円/月×(25+95)日=36,000円

3 通院交通費 須田病院、東松山整形外科病院への通院のためのタクシー、ハイヤー代 12,340円

別表Ⅲ 休業による諸損害……3,800,009円

1 給料の支払を受けられなかつたことによる損害……1,938,930円

(1) 47.12.29~48.3.31までの3か月分

86,150円/月×3月=258,450円

(2) 48.4.1~49.3.31までの12か月分

105,690円/月×12月=1,268,280円

(3) 49.4.1~49.6.30までの3か月分

137,400円/月×3月=412,200円

2 賞与のないための損害(事故に遇わなければ受げ得たであろう額との差額)……1,305,610円

(1) 48年7月期 189,500円

(2) 48年12月期 335,510円

(3) 49年7月期 368,700円

(4) 49年12月期 411,900円

3 残業出来なかつたことによる損害……334,458円

48年1月~49年6月までの18か月(1月当り18,581円)

18,581円/月×18月=334,458円

4 負傷の治療のため休職したことにより年次有給休暇を発生せしめ得なかつたことによる損害……175,522円

(1) 48年度

105,690円(1か月の給与)÷23(1か月の勤務日数)=4,595円(1日当りの給与額)

4,595円/月×20日(事故に遇わなければ発生したであろう年次有給休暇の日数)=91,900円

(2) 49年度((1)と同様の算出方法による。)

137,400÷23=5,973

5,973×14=83,622(円)

5 負傷の治療のため休職したことにより精励休暇を発生せしめ得なかつたことによる損害……45,489円

(2か月間欠勤0の場合、1日発生することになつているので、原告は、事故に遇わなければ48年度に6日、49年度に3日―49年6月まで―発生せしめ得たものである。)

(1) 48年度

4,595円/月×6日=27,570円

(2) 49年度

5,973円/月×3日=17,919円

別表Ⅲ 慰謝料、弁護士費用……2,680,000円

1 慰謝料………2,480,000円

(1) 入院に対する慰謝料

47.12.28~48.1.21……25日

48.2.5~48.5.10……95日} 120日入院……50万円が相当である。

(2) 通院に対する慰謝料

48.5.11~49.6.30………14か月―1か月当り5万円が相当であるから70万円となる。

49.7.1~49.12.31………6か月―〃4万円〃24万円となる。

(3) 後遺症に対する慰謝料

原告は本件事故による受傷により、以下のような後遺症に悩まされている。

a 年中後頭部が痛む。寒さや疲れた時に痛みが甚しい。

b 首を左右に回すと痛む。左に首が殆ど廻せない。

c 常に手や足がしびれる。特に左手、左足がしびれる。

d 頭がジーンと鳴る。耳鳴りがする。

e 胸が押しつまる感じがする。

f 気分が悪く、目まいがする。

上記後遺症状は、後遺症状等級表の12級12号に該当するから、これに対する慰謝料は104万円が相当である。

2 弁護士費用……200,000円

被告らが示談に誠意を示さないので原告は止むなく弁護士を依頼して訴訟を提起したものであり、しかして原告は弁護士に20万円の手数料を支払つたので、その賠償を求める。

別表Ⅴ

{(133,030+8,690+553,769)+(1,208,031+23,000+37,000+22,636+4,722+7,520)×1/2+(208,330+9,064+67,258+44,500)×1/3}+{(36,440+6,500)+(4,720×5,940)×1/2}+{(258,450+94,750+55,743)+(1,680,480+798,960+278,715)×1/2+129,610×1/3}+{(600,000+250,000+200,000)}=4,386,155

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